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古代エジプトに見るPDCAの起源

2016.04.28
バローレ総合研究所 代表 勝眞一郎
勝眞一郎
勝 眞一郎
1964年生まれ。バローレ総合研究所代表。サイバー大学IT総合学部教授。奄美市産業創出プロデューサー。機械製造業に18年勤務。モノづくりの現場で、経営、設計、製造、物流、情報システムと広範囲な活動をグローバルな舞台で実践。社会貢献を基軸とした「バローレ経営」の提唱者でもある。奄美大島出身。フリーダイバー、サーファー。

私が教鞭をとるサイバー大学は、2007年4月文部科学省認可の4年制大学として設立されました。IT総合学部と世界遺産学部の2学部でスタートしましたが、残念なことに世界遺産学部は2010年4月入学を最後に募集停止となっています。

サイバー大学では、授業の収録はスタジオで、授業運営はネット環境のあるそれぞれの研究室で行います。よって、普段教員同士が顔を合わせる機会は多くはありません。そうした中でも、必ず顔を合わせるのが学内の研究会や教授会です。教授会には、全教員が会し、学校運営の議題について話し合いを行っています。

世界遺産学部との全学教授会の後の私の楽しみは、世界遺産学部の先生方の飲み会に潜入することでした。IT系の話は普段から仕事でも触れる機会は多いので、世界遺産学部の先生方の全く異なるフィールドでの話は、とても興味深く、楽しみにしていました。

そんな中、エジプト考古学の菊池敬夫先生に「勝先生、古代エジプトの資料として、こういうものがあるのですが、興味ありますか?」と見せていただいたのが、英語で書かれたアブシール文書の解説本のコピーでした。

アブシール文書とは

アブシール文書とは、エジプト第5王朝の3番目の王ネフェイルカラー・カカイ(紀元前2470年没)の葬祭殿から発見されたパピルスにヒエログリフで書かれた文書です。アブシールという場所で発見されたことから、この名前がついています。文書の作成された年代は、紀元前2365年から2322年の間とされています。

アブシール文書の中には、勤務表、備品在庫表、会計文書、その他が含まれていました。菊池先生から見せていただいた資料には、当時のパンの調達に関する予実績が書いてあるとのことでした。ある神殿を作る際に作業員に配給する1カ月分、しかも5種類のパンの日別の必要量と調達実績、そして差異が書いてあるというのです。

この時点で、私はビックリしました。今から4300年以上前に、予実績管理ができていた!今でも、業務改善で使っている予実績管理がそんな前から存在していた。私は、さすがに興奮して、菊池先生に根掘り葉掘り、資料について質問をしました。

計画のブレークダウン

(図1. アブシール文書の一部)

(図1. アブシール文書の一部)

(図2.アブシール文書の解説*日本語注記と表は筆者加筆)

(図2.アブシール文書の解説*日本語注記と表は筆者加筆)

この資料には、ある新しい神殿を建設する際に必要なパンの供給計画が書かれていました。食糧の予定が書かれているということは、基になる神殿の建設計画、そして人員計画があったわけです。以前エジプトでピラミッドを見たときに、「これは、高度なプロジェクトマネジメントがないと到底できない建築だ。」と感じたことが、やっと納得できました。

食糧の計画は、人員の計画に従い、人員の計画は建築の計画に従います。その他にも、おそらく建築資材や宿、そして飲み物などの計画表も存在していたと想像できます。

PDCAに関する想像

次に注目したのは、差異です。予算と実績の差異をカウントしていたということは、改善を促すことがなされていたハズです。「3つ持ってくると言ったのに、なんで2つしか持って来なかったのだ?」当時、このような会話がなされていたのかも知れません。

納入ミスがあった場合に、何か罰があったのか?ミスを防ぐための改善計画書を作っていたのか?については、書かれていませんが、何らかの改善指導はあったのでしょう。こうした一連の流れは、まさにPDCAサイクルです。ゴール達成に向けて計画を立て、実行し、差異をチェックし、改善する。人類は4300年以上前から、このことを繰り返し、モノづくりを行ってきたのです。

そして、そのころから、差異による管理技術は、ほとんど進化していないのです。

モチベーションと技術

古代エジプトの壮大な建築物のダンドリ(計画展開)の一部は、アブシール文書によって謎が解けました。

いまだにわからないのが、こうした計画を推し進めるためのモチベーションです。一部の文書から奴隷のような強制労働ではなく、組織が構成されて建築にあたっていたということも言われています。そうなると、組織全体を成立させるためのミッションやビジョンはどうであったのか?人事評価制度はあったのかなども気になります。完成した時には、関係者で喜びを分かち合ったことでしょう。

さらに、建築を支える設計図などの技術文書も残っていないので、技術に関しても謎です。恐らくは技術の積み重ねがあり、なんらかの計算書があり、それらは意識的に破棄されたのかもしれません。まだまだ謎の多い古代エジプト文明は、私たちをこれからも魅了します。

現場管理を進化させる

現在、わたしたちの業務現場における管理としては、重要な指標をピックアップし、よりゴール達成に向けた重点管理を採用するなどの工夫はされています。しかし、基本は4300年前とほとんど変わっていません。

もっと何か有効な管理のしかたはないのか?人が何かを成し遂げる時に有効なダンドリのしかたはないのか?アブシール文書を見て以来、そのことを考えるようになりました。このままでは、古代の人たちに笑われてしまいます。

4300年も変わってこなかった計画の立て方、実行管理のしかたに、今、創発が求められています。

(資料:HIERATIC PAPYRI IN THE BRITISH MUSEUM, FIFTH SERIES THE ABU SIR PAPYRI, Paule Posener-Krieger and Jean Louis de Cenival, THE TRUSTEES OF BIRITISH MUSEUM,1968)