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造船業の第4次産業革命

2016.08.16
谷川文章
谷川文章
谷川 文章
1963年生まれ。広島県広島市出身。総合重工企業の造船事業部門に約21年間勤めて造船のプロとなる。43歳で純国内系コンサルティングファームへ転身、約7年間勤務し、外部から事業を改革・改善する喜びを知る。現在は国立研究開発法人海上技術安全研究所・上席研究員、および一般財団法人日本船舶技術研究協会・業務第2ユニット長。また愛媛大学および大阪大学にて非常勤講師として造船専攻の学生を指導。オールドエコノミーの代表格である我が国造船業の復権をライフワークとする。

西日本から順々に梅雨明けが報じられ、気温もぐんぐん上がってきて、我が造船業の作業環境には厳しい夏がまたやってこようとしています。この原稿はそんな時候の7月22日に書いています。

今週の月曜日は国民の祝日「海の日」でした。私の記憶では、「山の日」が今年から始まるまでは、長い間「海の日」が最も新しく制定された祝日でした。造船所に勤務していた若手時代に、業界を挙げて「海の日」制定に向けた署名活動をして、「こうやって祝日を増やせるんだなあ」と妙に感心したことを懐かしく覚えています。

今年の海の日は、全国各地の造船所や港湾で、工場や船の見学会が開催され、特に多くの小中学生に興味を持って参加していただき、大盛況であったと聞いています。我が国の将来を託す世代に造船業の魅力が伝わったことは、業界に身を置く者として素直に嬉しいことです。

不況業種と呼ばれ続けて

このように、船は若い世代の純粋な知的好奇心の対象には値するようですが、果たして彼ら彼女らは人生の進路を決める段階になっても、造船業界を選んでくれるでしょうか。私には確信が持てません。業界内にも「このままでは国内他産業との人材獲得競争に負けて衰退してしまう」という危機感があります。

どうしても、造船には不況業種という印象がついてまわります。「造船に 進むと言うと 親が泣き」という自虐的な川柳が学校内や業界内で囁かれていた時期もありました。

出身校に学生採用活動のため訪問すると、就職担当教授から「君らの業界がしっかりしないから、私は教え子の大切な人生を責任もって預けることができない」と叱られたこともありました。

人生を託す進路を選ぶにあたって、不況業種と呼ばれる業界を、大多数の若者が避けようとするのは自然なことです。造船業を好んで選ぶのは、「不況業種で成功して世間をアッと言わせてやる」、「他人がやらないことが好き」といった風変わりな考えを持つ一握りの人々くらいでしょう(振り返ると私はその一人だったようです)。

海上荷動きは安定成長なのに

我が国造船業は、過去何度かあった市場安定期には、品質とコストの同時追求によって、無類の強さを発揮してきました。しかし市場の安定はいつも短期間で終わり、何度も繰り返される世界的な海運・造船市況の乱高下が、我が国造船業の経営をおかしくしてきました。

過去の統計によれば、同じ船でも好不況によって、新造船価は倍半分、海上運賃はもっと激しく1桁違う、ということが何度も起きています。

不況期には、低操業対策として(業界では「船台を空けない」という表現をします)、不慣れで技術的に練られていない特殊船の受注に走ることがあります。その結果、「何も仕事をしないで休んでいた方が、赤字が小さかった」という悲惨な事態が起きています。

また「どの船が受注できるかわからないから」と称して、貴重な技術者リソースをいろいろな船種に分散する、ということも行なわれます。その結果、どの船種も受注はできるがコストダウン検討が不足して、満足な採算を得られないという事態に陥ります。

逆に好況期は、船価が良いから成り行き任せで受注できるし黒字になる。だからとにかく造るだけ。そこには改善の動機付けは薄く、好況の割には利幅が薄いという姿も見られます。

各種統計によれば、実は世界の海上荷動き量は、山谷なく安定してゆるやかに成長し続けてきました。それなのになぜ、その海上荷動きを担う海運・造船市況は乱高下し、我々はそれに振り回されて一喜一憂してきたのでしょうか。何かがおかしいと思わざるを得ません。

本当に受注生産なの?

「造船業は見込生産ですか?受注生産ですか?」と問えば、皆「受注生産」と答えます。生産方式の定義に基づけば正解です。しかし造船業は受注生産と言いながら、実はその発注は見込み・投機に基づいています。

一部の特殊用途船を除けば、いま発注した船が完成後に運ぶ荷の注文がその時点で確定しているわけではなく、将来の経済や荷動きの成長を見込んで船は発注されます。海運と造船をひとまとめに一段上から見れば、造船業は実需に基づく受注生産ではなく、予測や期待に基づく見込生産の業界なのです。

将来予測が好況傾向にあると、各発注者が自分に都合の良い予測に基づき、自分の利益追求だけを目的に、見込み・投機で船を発注するので、世の中全体の発注残はどうしても将来の実際の必要量より過多になります。それらのバブル需要に乗ろうとして、新興国が造船業に新規参入することもあります。

そしてそれらの船が完成する頃には、実際の荷動き量に対して船が多すぎる「船腹過剰」状態を引き起こします。そうすると手のひらを返したように船の発注がピタリと止まる。それがしばらく続くと、逆のことが起きる。単純化すれば、これが海運・造船市況の乱高下のメカニズムです。

再び「時は金なり」

大胆に、「造船業は見込生産である」と捉えることによって、解決への道が開けてきます。

造船市場が見込み・投機になるのは、新造船の受注リードタイム(=受注~引渡)が2~3年と長く、一般的な経済活動の意思決定サイクルとかけ離れているからです。昔「小豆相場」と言われたような農産物が相場モノになるのも同様の原理です。

前回の本欄で私は、造船の「時は金なり」というタイトルで、造船の極端なリードタイム短縮が数字上は可能という夢を語りました。これを突き詰めると、個別企業の競争力というよりも、業界の姿を変えることができそうです。

即ち、我が国造船業が超短納期建造(象徴的には受注~引渡=1ヶ月)を実現することにより、新造船市場を見込み・投機から、実需に基づく真の受注生産に変える。実需に基づく新造船建造は発注者の経営リスクを無くすので広く歓迎され、超短納期建造のデファクト化を促し、現在の他造船国の過剰な供給力を淘汰するとともに新興国の投機的参入を無意味なものとし、安定市場で独占的に我が国造船業が実力を正当に発揮し続ける。これが目指すシナリオです。

他業種で語られている姿と趣は異なりますが、これがいわば造船の第4次産業革命です。個人的には「我が業界はまだやれる」とワクワクしているところです。